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聞こえているけど聞き取れない?LiD/APD(聞き取り困難症/聴覚情報処理障害)とは

難聴の種類について、多くの場合では伝音性難聴、感音性難聴、混合性難聴の3種類だと説明されますが、実はもう1種類、難聴に似た症状が出る障害があります。それは「聴覚情報処理障害」というものです。この記事では、聴覚情報処理障害の症状や対処方法について説明します。

LiD/APD(聞き取り困難症/聴覚情報処理障害)とは

LiD/APD(聞き取り困難症/聴覚情報処理障害)とは、聴力は正常であるにも関わらず、日常生活のいろいろな場面で聞き取りにくさ(聞こえているが話の内容が聞き取りにくい状態)が生ずるというものです。

LiD/APDは具体的に、音を収集・感知する箇所(外耳、中耳、内耳、末梢の聴神経)の機能には異常が無く、聴覚情報を処理する「脳」の情報処理に何らかの問題がある状態です。音は聞こえているのに、「言葉の処理」ができない状態なのです。その障害をもつ潜在的な患者数は、推定240万人にものぼると言われており、日本人の約2%が該当します。LiDはあまり知られていない障害でしたが、2018年にNHKで取り上げられてから、日本でも少しずつ知られるようになってきました。

「聞こえているのに聞き取れない」、この状態を表す言葉として、今まではAPD=Auditory Processing Disorder(聴覚情報処理障害)が使用されていました。今ではLiD=Listening Difficulty(聞き取り困難症)もよく使われています。LiDとAPDは異なる名称ですが、症状や意味は同じと考えて良いでしょう。最近、海外ではLiDと呼ぶことが多いため、日本でもLiDもしくはLiD/APDと表記することが増えています。

LiD/APDの原因と症状

LiD/APDの原因は、「神経発達症の問題、注意や記憶の問題、覚醒状態の問題、心理的問題」など、人によってさまざまだと考えられています。日本国内のLiD/APD研究の第一人者、国際医療福祉大学小渕千絵教授によると、これらの原因に共通するものは「注意機能」です。

注意機能とは「一部の刺激を取り入れ,それ以外の事象を排除する心的能力」です。具体的には、聞く、話す、読む、書く、起き続ける(覚醒)、集中する、覚える、考えるなどの様々な行動を支えている、生活するうえで必要な力です。

日常生活の中での注意機能の問題で、消えてなくなってしまう聴覚情報の処理を効率的に行なえなくなり、その結果として、聞き取りにくいという症状が発生していると考えられています。

注意機能を妨害するのは周りの雑音の場合が多いのですが、雑音だけではありません。例えば会議の場で、携帯電話からの情報が気になる、会議とは直接関係のないことを考えてしまう等、他の妨害要因も存在します。

LiD/APDの症状は

  • 耳のみで指示を理解するのが難しい
  • 雑音の中での聞き取りが難しい
  • 複数人との会話が難しい
  • 耳のみで覚えるのが難しい

等が挙げられます。難聴と似た症状に思われますが、「聴力検査をしても異常がない」というのが大きな特徴です。適切な検査を行わないと、他のタイプの難聴と区別するのが難しい場合もあります。

LiD/APDの診断

LiD/APDの診断基準は、日本国内ではまだ定まっていませんが、大阪市立大学病院の阪本浩一先生を中心に作成が進められています。今のところは、下記の2つの方法で検査し、検査結果から総合的に診断が行われています。

〇質問紙(アンケート):
当事者が自分の聞こえにくさをどのように捉えているのか
〇聴覚検査:
実際の聴覚検査で、どの程度その症状がみられるか

LiD/APDの対処方法

LiD/APDに対する支援方法は、いくつか考えられています。

  • 環境調整
    周りの人の理解を得る、騒音を減らす、話者との距離を縮める等、聞き取りやすい環境を作ることが大切です。
  • 補聴手段の利用
    LiD/APDは雑音下での聞き取りが苦手なことが多いため、補聴器等の補聴器具で雑音を押さえて聞き取りやすくします。
  • 心理的なサポート
    聞き取り困難からトラブルやいじめ、大きな心理的問題が発生する場合があります。大人なら休職など二次的な精神疾患につながるケースもあります。そのため、心理的な安定が図れるようLiD/APDへの理解を促し受容することが重要になります。
  • その他
    ①文字化ソフトの利用
    ②聴覚トレーニング:
    語彙力を高める、聞くこと自体に慣れる、推測力を高めるなど様々なトレーニングで聞く自信をつけていきます。
     

 

周りとLiD/APD当事者による支援

LiD/APDは聴覚には異常がないため、周囲への伝え方に悩む人も多いそうです。しかし、学校や職場でコミュニケーションの支障が生じるので周りの方の理解を高めることが重要です。現在では関係者でLiD/APDマークを作成し、LiD/APDに対する認知や理解を広げるために積極的な情報発信を行っています。
また、LiD/APDの症状がある本人によって発足した当事者会も存在しています。「APD Peer Support」(APDピアサポート、略称APS)が医療機関、支援方法など様々な情報を共有しています。


聞いた言葉が理解しづらいと感じている方は、まず耳鼻咽喉科で聴力に問題ないか、診断を受けることが最初のステップになるでしょう。「聴力は正常」と判断されたにも関わらず、実際の生活場面で聞き取りにくさに悩んでいる方は、LiD/APDを診られる病院で受診することをお勧めします。
また、聞き取りの改善に補聴器が役に立つと判断された場合、ぜひ補聴器販売店で専門スタッフに相談してみてください。 

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